村上春樹の新作を読み終えて

つい先日、村上春樹の新作『街とその不確かな壁』を読み終えました。

取り敢えず、夜ひとりで読む楽しみが終わってしまったので新作を待つしかありません…

で、勝手に感想を書いてみます。

まず、目を引いたところは「二人称での語り」があったことです。

正確なことは分かりませんが、恐らく今までの作品の中でそれは初めてだったのではないでしょうか?

初期作品の多くは一人称語りでしたが、『海辺のカフカ』辺りから三人称語りが試みられていたと思います。

ひょっとしたら『アフターダーク』だったかもしれません。

いずれにしても二人称で語られる小説は大変珍しいと思われます。

二人称で語ることがこんな形で行われるのかと個人的にはとても感心しました。

また、現在形で書かれた部分が多く見られたことも個人的には非常に印象的でした。

現在形で語ることで独特な雰囲気が醸し出されます。

すぐに連想したのがポール・オースターの『幽霊たち』(GHOSTS)でした。

あれもなかなか実験的な作品なのでたまに読み返したくなります。

時制が現在形で書かれることによって、何と言うか超絶とした感じが出るような気がします。

普遍性とでも言いましょうか?

それから村上春樹と言えば必ず「性的な描写」を否定的に捉える人々が一定数いるような気がしますが、今回はそう言ったものがほぼゼロに等しかったことも興味深いと思いました。

「もう、うるさいなぁ!そんなの書かなくても十分話を進めること、飽きさせないことは出来るもんねぇ」とでも言っているように個人的には思えます。

終盤で登場人物がガルシア・マルケスを説明するくだりがありますが、この辺もなかなか面白い仕掛けだなぁと思いました。

と言うのも、村上春樹の作品はマジックリアリズムと位置付けられており、その元祖ともいえるガルシア・マルケスを引用しながらマジックリアリズムとはどんなものかを説明しているのです。

作品中にそのような形で注釈をつけているようなやり口はなかなか興味深いと思います。

ガルシア・マルケスがノーベル文学賞の受賞者であることは言うまでもありませんが、それも村上春樹流のユーモアなのかなぁと感じました。

毎年のようにノーベル文学賞がどうのとうるさい世間への何らかのメッセージなのかもしれません(笑)

とにかく今までの作品とは違うものに毎回トライしているところが素晴らしいなぁと思います。

例えば前作の『騎士団長殺し』では主人公である画家の目を通して見えてくる世界を文章で克明に描写する試みおよびそれが圧倒的に成功していることには本当に驚かされました。

村上春樹は本当は画家なのかもしれないと思っちゃうくらいにうまいこと書いていたと思います。

全体的に今回の作品は村上春樹の余裕のようなものを感じました。

二人称語りで遊んでみたり、現在形で語ってみたり、性的描写が無くっても全然へっちゃらだぜ!マジック・リアリズムって知ってるかい?と言った調子で終始こちらを試しているかのような印象すら受けます。

ここからいくつもの作品を書くことはなかなか難しいとは思いますが、ファンとしては次の作品が出版される事を願わずにはいられないのでした。

待っております!